この記事は、自閉症スペクトラム(以下,ASD)の特性である「感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ」のうち、「感覚鈍麻」についてまとめておきたいと思います(^ω^)
- 感覚鈍麻ってなに?
- 感覚鈍麻の具体例は?
こんな疑問がある方はぜひご覧ください(^^ゞ
結論~感覚鈍麻とは?~
感覚鈍麻とは、外や内からの刺激ににぶく、結果的に生きづらくなるASDの特性の1つだと考えられます。
感覚低反応では、通常は反応を示すような感覚刺激に対して、気づかなかったり、反応が遅かったりする。例えば、温痛覚の低反応がある場合、熱いストーブのように通常は激しい痛みをもたらすようなものを触り続け、外傷がもたられる。
(引用:自閉スペクトラム症の感覚の特徴,p370,右列,10-15行目)
具体例も、以下の図にまとめてます。

前提
まず、前提ですが、「感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ」はDSM-5における、自閉症スペクトラムの診断基準の1つである、「限定された反復的な行動」の下位分類の1つとして位置づけられています。

そして、「感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ」は3つに分類されますが、そのうちの1つに「感覚鈍麻」があります。
↓↓こちらの赤枠の部分の話がメインです(^ω^

感覚過敏については、↓↓こちらにまとめてます。
では、以上を踏まえて、感覚鈍麻の具体例をみていきます。
感覚鈍麻の具体例
以下は、冒頭におみせした図解です(^^)

まず、感覚過敏に比べて、鈍麻性の具体例が少ない点についてですが、その理由としては以下の2つが考えられます。
- 過敏性の方が社会生活上問題になりやすい。
- そのため、本人も周りもあまり気にしない。
以上を踏まえて、五感ごとに具体例をとりあげてみます(^ω^)
視覚鈍麻の具体例は?
視覚鈍麻の具体例には、以下のようなものが挙げられます。
視野が狭い、距離感がつかめない
なので、人や物ににぶつかったり、けがをしたりしやすいでしょう。
これは、安全面というところで問題になりやすい部分ですね。
「吉田ら(2011)は、自閉症児の視覚情報処理様式には、周辺視野による広く浅い特性であることを指摘しているが、周囲の変化に気づかない対象児の反応は、むしろ視野が狭い行動と考えられた。視野の狭さは、周囲の危険に早く気付き、回避することにも困難が生じると予想されるため、事故やケガの観点からも配慮が必要になる」
(引用:自閉スペクトラム症児の保育活動で見られる感覚の低反応と行動ー視覚、聴覚、触覚に焦点をあててー,p59,左列【1. 視覚の低反応の特性】8-14行目)
人の顏が覚えられない
なので、「だれだっけ?」となる。
結果、失礼な奴というレッテルを貼られる。
この特性は、「人間関係を築けない」という問題にもつながりますし、中枢性統合の弱さがわかりやすく表面化した問題のような気がします。
「ASD者の視覚過敏に関する調査結果は次の通りである(高橋 ・増測, 2008)。順に,苦手な色の服は着られない,苦手な柄の服は着られない,疲労していると視覚刺激を強く感じる,すれ違おうとして人にぶつかる,人の顔を識別するのが大変苦手,適度な字聞を保つのが難しい,頁のどこを読んでいるのかわからなくなる。目まぐるしい街の様子を見ていると気分が悪くなる,本を読む時,行や単語を飛ばしてしまう,焦点が合いにくい,である。ここでも視覚過敏と同時に鈍麻が含まれている」
(引用:自閉スペクトラム症児者の感覚過敏-状態像と諸理論-,p183,最終段落,1-7行目)
聴覚鈍麻の具体例は?
視覚鈍麻の具体例には、以下のようなものが挙げられます。
よく聞き間違いをする
なので、「ちゃんと話きいてない」と思われがち。
この特性も、「人間関係を築けない」という問題にもつながるところですね。
ASD者の聴覚過敏と鈍麻は,以下のように報告されている(高橋 ・増設リ, 2008)。順に, 突然の音にとても弱い,似た発音をよく聞き間違える,大きな音に弱い,声の大きさの調 整が難しい, 一度に二人以上の人と会話ができない,風船が割れる音がとても怖い,スー ノミ一等の BGMが気になる,人混みの騒音,聴覚から入るものは覚えられない,どうして も嫌な音声がある,となっている。
(引用:自閉スペクトラム症児者の感覚過敏ー状態像と諸理論ー,p182,4-8行目)
TVやゲーム音はなぜか大音量
音に敏感かとおもいきや、なぜか好きなことになると大音量。
なので、「普段は、めんどくさいから、それで逃げてるだけ?」と誤解される。
これも人間関係に影響するところですね。
身体感覚(触覚)鈍麻の具体例は?
身体感覚(触覚)鈍麻の具体例には、以下のようなものが挙げられます。
すごい食べる
この背景には、「満腹感」のにぶさが隠れている可能性があります。
昔大食い選手権とかやってましたけど、あれはどう考えても異常ですよね?
もしかしたら、あれも発達傾向の1つだった可能性もあったのかな?
なんて考えたりします。
過食は、健康問題に発展しますからね。
これも要注意です。
周りの人が、適正量を知らせるバロメーターになってあげる必要がありますね。
幼少期には満腹感がわからず,いつも母親に「僕はお腹がいっぱいになりましたか。」と聞き,満腹度を確認していた。現在も満腹の感覚はわかりにくいようだが,「だいたい食べる量を決めています。」と話し,食べる量を最初から決めることで対応をしているようだった。
(引用:自閉スペクトラム症の感覚処理特性とこだわりの長期的予後に関する一考察-半構造化面接を通じて-p3,右列【2.感覚鈍麻】,1-6行目)
ケガとかしても何も言わない
人からすると大けがなのに、そのことについて何も言わないことがあります。
ケガをした当時は、何事もなかったかのようにみえて、時間差で痛がるケースもあるので、要注意ですね。
けがが多いので、いじめられてるのかと勘違いすることもあるようです。
保育園や学校だと、先生の監督責任義務に発展することもありますからね・・・
軽視してはいかんですね( ゚Д゚)
医学分野で扱う感覚の中で最も多かったものは、痛覚であった。山内ら(2001)は、AS の対象が「大けがをした時にも泣きもせず親にも知らせなかった」と生育歴のエピソードとして痛覚の鈍麻を疑わせる記述をしており、羽田(2012)は、「本人の訴えの割に客観的所見が乏しい場合は、PDD に伴う感覚の問題が潜んでいる」と述べている。
(引用:ASD 児者の感覚の特性(過敏と鈍麻)に関する国内研究の動向,p34,左列【(2)医療系領域(医学、歯学、看護学分野)】,2段落,1-7行目)
以下の話も身体感覚関連です。
とても興味深いので一読してください。
私の感覚だと、「感覚鈍麻」といわれている状態は、細かくて大量である身体内外の感覚が、なかなか意味や行動としてまとめあがらない様子のことを指しているのだと思う。たとえば、私自身は身体の空腹感や体温変化をまとめあげるのに時間がかかる。ほかにも尿意がまとめあがりにくいため時間で決めてトイレにいく人や、新陳代謝の感覚に関してまとめあがりにくく不衛生になりがちな人、生理の感覚がまとめあがらず、人に指摘されて恥ずかしい思いをする人などの経験談を、自閉圏当事者の集まりで聞いたことがある。このようなときには目に見える行動や表出がなく、一見ボーっとしているように見えるため、「感覚鈍麻」とみなされるのであろうが、むしろ(中略)細かくて大量な、あちらことらからの身体感覚にとらわれている可能性が高い。
(引用:自閉スペクトラム症の研究において地域性・時代性に依存するdisabilityと個体側のimpairmentを区別することの重要性,p327,左列,最終段落,1行目-右列,5行目)
この尿意の話は、大人になってもある人はある気がします。
トイレに行くタイミングが周りとずれてるとか。
味覚過敏の具体例は?
味覚鈍麻に関しては以下のように、特に過敏性が問題になることが多いようです。
「偏食がとても多い,食べたことのないものはとても怖い,食べ物に関して全く執着がない, つぶつぶの入った食べ物,何かが混ざり合った食べ物はうけつけない,歯磨き粉の味が嫌いで歯が磨けない,柔らかくゆるい感じの食べ物を見ると吐きそうになる,である。味覚過敏に加えて味覚の鈍麻も含まれている」
(引用:自閉スペクトラム症児者の感覚過敏-状態像と諸理論-,p183,最終段落,1-5行目)
しかし、この引用をみると、どれも過敏性にしかみえないのですが、最後の「味覚の鈍麻も含まれている」とあります。
そのため、「ここに鈍麻性があるとすれば?どの部分を言っているのか」という推察ベースで具体例をあげていきます。
濃い味を好む
「鈍麻=にぶさ」であると考えると、やはり薄味だとおいしさを感じれなくなる可能性があります。
そのため、より濃厚、あるいは、より刺激の強い食べ物でないと、味を感じづらいと考えられます。
だとすると、僕たちが薄味だと物足りなさがあるように、より濃い味を求め、結果「偏食が多くなる」のではないでしょうか?
「偏食=苦手な食べ物が多い」と僕は思いましたし、そういう場合もあるのでしょうが、回避の結果の偏食ではなく、「濃い味を求めた結果の偏食」という感じだと考えられます。
また、「食べ物に執着がない」というのも、鈍麻性による興味の低下だと考えられます。
味の劣化に気づけない
これも味覚がにぶいと考えられる問題です。
どんなに食に関心が薄いとはいえ、生きている以上、お腹は空きます。
そのときに、食料調達が面倒なので、冷蔵庫にあるものを何か適当に食べようと思うことってありますよね?
その時に、賞味期限内ではあるけれど、味が劣化しているものって、食べるとなんかわかるじゃないですか?(笑)
それに気づけないということは、食中毒とか、体調不良をもたらす危険性も想定できますね( ゚Д゚)
嗅覚鈍麻の具体例は?
嗅覚に関しても、特に鈍麻性をキャッチしづらいため、以下の引用部分から、想像ベースで具体例をあげていきます。
筆者らが臨床の場でみてきた ASD 児の嗅覚特性には,ペンキのニオイが嫌で図工室に入れない,体臭が気になり人に向き合うことができない,お盆のニオイが嫌いでおやつが食べられない,色々なもののニオイを嗅ぐ,ニオイがするからと繰り返し手を洗う,調子が悪くなるとマスクをつける,タオルを首に巻くといったものがあり,どれもが社会機能および予後に大きな影響を与えうる所見と考えている。
(引用:自閉スペクトラム症の嗅覚特性,p215(53),左列2段落,1-9行目)
異変に気づけない
例えば、ガス漏れや火事による煙を感知できず、安全性が脅かされる場合があります。
これは安全面の問題ですね。
自分自身のにおいに気づけない
自分自身の体臭や口臭を認識できないため、身だしなみを整えるとかできないと考えられます。
自分が臭いという認識がなければ、入浴などの回数もへるでしょうね。
不潔というレッテルを貼られ、周りから避けられます。
この問題も、周りに人をよせつけないという、社会性の問題に繋がりそうです。
色々なもののニオイを嗅ぐ
周りが気づいて避ける臭い(例:トイレやゴミなど)に気づかず、同じ空間にとどまることで周囲から違和感を持たれる場合があります。
本人はいいですけど、これもまた、「変わった人」とかレッテルを貼られ、避けられる理由になりますね( ゚Д゚)
まとめ
さて、いかがでしたでしょうか?
最後に、本記事の内容を振り返っておわかれです(^^)/
- 感覚鈍麻の例は、感覚過敏に比べると気づかれにくい。
- その理由としては、①社会生活上問題になりづらい、②本人も周りも気にしづらいといった2つの理由が考えられる
- 視覚鈍麻の例には、「視野が狭い」「人の顏が覚えられない」などがある。
- 聴覚鈍麻の例には、「よく聞き間違える」「好きなものの音量は大きい」などがある。
- 身体感覚(触覚)の鈍麻には、「ケガに気づかない」「満腹感がわからない」などがある。
- 味覚鈍麻の例には、「濃い味を求め偏食になる」「腐ったものに気づかない」などがある。
- 臭覚鈍麻の例には、「ニオイの変化に気づけない」「清潔面から、人にさけられる」などがある。
ということなんですね~
それではまた♪
参考
- ASD 児者の感覚の特性(過敏と鈍麻)に関する国内研究の動向
- 自閉スペクトラム症児の保育活動で見られる感覚の低反応と行動―視覚、聴覚、触覚に焦点をあてて―
- 自閉スペクトラム症児者の感覚過敏-状態像と諸理論一
- 自閉スペクトラム症の嗅覚特性
- 自閉スペクトラム症の研究において地域性・時代性に依存するdisabilityと個体側のimpairmentを区別することの重要性
- 自閉スペクトラム症の嗅覚特性に着目する意義
- 自閉スペクトラム症の感覚処理特性とこだわりの長期的予後に関する一考察-半構造化面接を通じて-
臨床心理士資格試験でも「ASD」は出題されています
ということで、臨床心理士試験を受験される方は以下のページも参考にしてみてください!(^^)!
それではまた♪
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