MMSEと長谷川式簡易知能検査(HDS-R)の違い~ハイブリッド実施を求められた時の困りごと~

臨床心理査定

この記事は、MMSEとHDS-Rをハイブリッドで行わなければいけない人に対して、
その困りごとを解消するための内容になっています。

どんな困りごとかというと

  • 「MMSEとHDS-Rをやってください」と無茶ぶりされたけどどうすればいいかわからない
  • そもそも、何を用意すればいい?
  • 実施する順番や流れは?
  • 採点方法は?
  • いざ、検査を実施する上で困ること

この記事を読めば、こんな悩みを解決できます(^ω^)

結論~HDS-RとMMSEの違い~

前提として、ここで述べている「違い」は、HDS-RとMMSEの検査項目ごとの違いのことです。
説明するよりも、まずは、下の一覧表をご覧ください。

共通部分と、①共通項目、②HDS-Rのみの検査項目、③MMSEのみの検査項目という視点でまとめました。

  • 共通項目・・・日時の見当識、(場所の見当識)、短期記憶・視覚記銘力、計算・短期記憶・ワーキングメモリー、近時記憶
  • HDS-Rのみ・・・自己に関する見当識、ワーキングメモリー、短期記憶・視覚記銘力、言語の流暢性
  • MMSEのみ・・・物品呼称、文の復唱、口頭指示、書字指示、自発書字、図形模写

上記の通りですが、検査を実施する上で大事なのは、共通項目だと考えらえます。
なぜなら、共通しているからといって、やり方や採点方法が全く同じではないですし、非共通項目は、言わずもがな片方のやり方に則って実施すればいいからです。

用意するものは?

以上を踏まえ、次は検査に必要なものを把握します。

  1. 採点用紙
  2. 教示文
  3. 5つの物品(写真でも可)※HDS-Rの検査項目に必要
  4. 時計(or鍵)、鉛筆※MMSEの検査項目で必要
  5. A5(A4を半分にした)程度の紙1枚※MMSEの検査項目で必要
  6. Mini-Mental State Examination (MMSE)検査シートの2ページ目※※MMSEの検査項目で必要
  7. 受験者が記入に使う鉛筆

以上7点です。

採点用紙

採点用紙は、以下で紹介されている、「HDS-RとMMSEの共通シート」を使って検査を行うことを前提にすすめていきます。

第3章 認知症の診断 4.認知機能検査 | 公益財団法人 長寿科学振興財団
鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻基礎理学療法学講座 教授牧迫 飛雄馬 1....

教示文

採点用紙にも質問内容は書かれているのですが、あれは簡易なものですし、注意点がよくわかりません。

なので、以下を参考にするとよいかもしれません。

5つの物品

これはHDS-Rの検査「⑧短期記憶・視覚記銘力」で使用します。

検査に使う物品は,「時計,タバコ,ペン,硬貨」とあるが,これは例であって,必ずこの物品を用いなければならないわけではない。ただし,5つの物品は必ず相互に無関係なものとし,「鉛筆」「消しゴム」のように関係を類推できる物品は避ける。被験者にとってなじみの薄いものを避け,日常生活でよくみる物を選ぶ。

引用:改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

採点用紙をみると、時計、歯ブラシ、スプーン、鍵、鉛筆の5点なので、そこに合わせたほうがやりやすいかもしれません。

時計(or鍵)と鉛筆

これはMMSEの「⑩物品呼称」で使用します。

これも実物が望ましいようですが、アナログの丸型時計はない場合もあるかもなので、代わりに鍵を準備するのが現実的かもしれません。

A5(A4を半分にした)程度の紙1枚

これはMMSEの「⑫口頭指示」で使用します。事前に準備しておきましょう。

Mini-Mental State Examination (MMSE)検査シートの2ページ目

これはMMSEの「⑬書字指示」「⑭自発書字」「⑮図形模写」で使用します。

静岡てんかん・神経医療センターがPDFで公開しているシートがありましたので、これが使いやすそうです。

ちなみに、「⑭自発書字」を行う際には、検査シートを折っても問題ないようです。

・検査用紙を折り、検査9の問題が見えないようにした検査シートを差し出します。

引用:MMSE・FAB検査マニュアル

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

受験者が記入に使う鉛筆

これはMMSEの「⑭自発書字」で使用します。

短期記憶の検査で使ったりしましたが、それとは別に用意しておくと安心ですね。

実施する順番や流れは?

以上を踏まえると、HDS-RとMMSEは同時並行的に進めることができます。

そりゃそうだろうと思うかもしれませんが、僕がHDS-RとMMSEの依頼を受けたとき困ったのが、「どっちから先にやればいいの?」という疑問でした。

疑問というか、混乱に近いかもしれません。

冷静に考えればわざわざ1つに統合された採点シートが準備されてるのだから、そりゃそうだろと思うかもしれませんが、急にくるとパニックします。

ですので、このページをお読みのあなたは僕と同じ過ちを犯さないように、しっかりと準備してください(^ω^)

採点方法は?

では、↓↓こちらの採点用紙を使って実際に検査を進めていくうえでの注意点を述べておきます。

第3章 認知症の診断 4.認知機能検査 | 公益財団法人 長寿科学振興財団
鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻基礎理学療法学講座 教授牧迫 飛雄馬 1....

最初にお伝えした通り、注意すべきポイントは、「HDS-RとMMSEの共通部分」です。

具体的な項目番号を列挙すると↓↓こちらの通りです。

②日時の見当識

③(場所の見当識)

④短気記憶・視覚記銘力

計算・短期記憶・ワーキングメモリー

⑦数分前の近時記憶

ですので、この点だけに的をしぼって、当記事では、注意点をまとめておきます。

②日時の見当識

HDS-Rでいうと問題②、MMSEでいうと問題①に該当します。

採点は、1つの質問につき、答えられれば「1点」を、そうでなければ「0点」にチェックをつけます。

ここについてはそんなに混乱せずに、すむと思われます。

 日時の見当識の問題で,今日は何年の何月何日何曜日かを問う。年・月・日・曜日の正答はそれぞれ1点となる。「今日は何年の何月何日何曜日ですか」のように続けて聞くのではなく,それぞれの質問をゆっくりと分けて別々に聞く方がよい。

引用:改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

ただし、1つだけ注意点がありますが、「季節」を問う質問だけ、HDS-Rにはないので、その点だけ押さえておけば、十分でしょう。

・「今の季節は何ですか」で、季節の切りかわりの時期の場合はどちらでも可とします。また「初冬」「梅雨」なども正解とします。

引用:MMSE・FAB検査マニュアル

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

場所の見当識

場所の見当識は、共通項目ではありますが、それぞれ質問項目とその数が異なるのがやっかいです。

  • HDS-R・・・1問
  • MMSE・・・5問

また、採点の仕方にも違いがあります。

具体的には、以下の通りです。

  • HDS-R・・・正解2点、ヒントで正解1点、誤答0点
  • MMSE・・・正解1点、誤答0点

「私たちがいまいるところはどこですか?」と質問する。質問に対してヒントなしで正答した場合に2点となる。質問に対して自発的な正答が出ない場合には,5秒程度待ち,「ここは病院ですか? 施設ですか? 家ですか?」のように問いかけ,正しく選択できれば1点となる。

引用:改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

短期記憶

ここでの内容は、3つの言葉を覚えてもらうことですが、やり方と採点はどちらも同じです。

なので、その点に関しては、そこまで混乱することはないと思います。

ただし、検査の受け手が3つの言葉を覚えられないときに、何回まで繰り返してよいかという違いがあります。

  • HDS-R・・・3回
  • MMSE・・・6回

HDS-Rが3回の根拠が↓↓こちら。

 1回で覚えられない場合,再度その言葉を提示するが,提示する回数は,最初の1回を含めた計3回である。

引用:改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

MMSEが6回の根拠が↓↓こちら

全てを言えなかった場合、3つとも言えるようになるまでくり返します。(ただし、6回まで)

引用:MMSE・FAB検査マニュアル

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

どちらに合わせるかというのは、大事な気がしますが、最大6回という認識を持っておけばいいのではないかと考えています。

なぜなら、個人的な肌感としては、3回やって覚えられないということが今のところないからです。

大前提として、心療内科ってそもそも認知症の人が来るところではないからなんでしょうねとは思いますが(^-^;

計算・短期記憶・ワーキングメモリー

これもまたややこしいです。

なにがややこしいかというと、まず採点用紙の表記。

というのも、↓↓こんな感じなんです。

これ、パッと見疑問だらけでした僕(^-^;

なので、採点方法についてとりあえず結論だけ示しておきます。

  • HDS-R・・・2回までの計算結果を採点
  • MMSE・・・5回までの計算結果を採点

つまり、ポイントとしては、HDS-Rの場合、「2点満点」で、MMSEの場合、「5点満点」です。

これだけ頭に入れておけば、OKだと思います。

HDS-Rが2点満点の根拠

この用紙を使って初めて検査をする人は、「え?本当に2点満点なの?」と思うかもしれませんが、そのように判断できる根拠が2つあります。

1つ目の理由は、「HDS-Rは30点満点の検査」だということです。

仮に、この検査が5点満点だとすると、全検査の合計が33点になります。

2つ目の理由は、HDS-Rの採点用紙をに明確に記載がありますね。

岐阜県立下呂温泉病院が公開してるPDFファイルをみれば一目瞭然です。

以上の理由から、HDS-Rの「計算・短期記憶・ワーキングメモリー」の問題は2点満点だと言えるのです。

僕のように、いきなりハイブリッドから入った人はそのような疑問を持つかもしれませんが、おそらくHDS-Rを単体でやってた人ならすぐ気づくのでしょうね(^-^;

実施の際の注意点

この問題での注意点は、2つあります。

促しの声掛け~具体的な数字を言わない~

1つ目は、計算を続けてもらう際の促しです。

HDS-Rの場合↓↓

 「 100 引く7はいくつですか?」と問い,答えが出たら「それからまた7を引くといくつでしょう」と問う。

引用:改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

MMSEの場合↓↓

・質問の意味が理解できていない場合、または質問のくり返しを求められた場合、「100から順番に7をくり返しひいてください」とくり返し言います。「100ひく7は?」と尋ねません。
・答えが止まってしまった場合は「それから」と言って促します

引用:MMSE・FAB検査マニュアル

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

大事なのは、100から7をひかせたあとに、『具体的な数字を言わない』ということでしょう。

つまり、「93-7は?」とか言わないってことです。

得点を与える際は、計算ごとに1点

2つ目の注意点は、その都度の計算で答えがあっていれば得点を与えるということです。

例えば、「100-7=92」「92-7=85」なら1つ目の計算は「0点」ですが、2つ目の計算は「1点」ということですね。

・途中で誤答になっても、次の回答が「ひく7」になっていれば正答とします。例えば、93→87→80→73→65の場合、○→×→○→○→× で3点となります。

引用:MMSE・FAB検査マニュアル

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

HDS-Rの場合、具体的な説明を見つけられなかったため、MMSEのこのやり方に合わせるのが良いと考えられます。

数分前の近時記憶

最後の共通検査項目がこちらです。

こちらも採点方法を理解しておかないと混乱します。

なぜなら、採点用紙が↓↓こんな感じだからです。

ここは、HDS-Rのやり方に合わせて行うことが良いと考えられます。

理由としては、MMSEのマニュアルに細かい注意点が記載されていないためです。

以上を踏まえ、おさえておくべきは2点です。

採点方法の違い~ヒントがあるかないか~

1つ目は、採点方法の違いです。

採点用紙をみてなんとなく予想はついたかもしれませんが、両者の得点方法には以下のような違いがあります。

  • HDS-Rの場合・・・誤答→「0点」、ヒントありで正解→「1点」、正答→「2点」
  • MMSEの場合・・・誤答→「0点」、正答→「1点」

「先ほど覚えてもらった言葉をもう一度いってください」と教示する。自発的に答えられたものには2点を与え,出てこなかった言葉に対して,それぞれの言葉に対するヒントを与え,ヒントによって答えられたものには1点を与える。

引用:改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用

※引用の具体的なページ番号などが知りたい方はこちら

つまり、HDS-Rはヒントありで採点するが、MMSEではヒントなしで採点するというのがポイントす。

ヒントの出し方~まとめてではなく、1つず与える~

2つめは、ヒントの出し方です。

以下の点だけ押さえておけばよいと思われます。

 「植物と動物と乗り物の名前がありましたね」というようにヒントをまとめて出してはならない。1問も答えられない場合には,「植物の名前がありましたね」というヒントを与え,正答や誤答が出た場合に,「次は動物の名前でしたね」というように,ヒントは1つずつ与える。また「桜・猫」などが出た場合には,「もう一つ乗り物の名前がありましたね」というようなヒントを与える

引用:改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用

いざ、実施する上で困ること~教示文の一元化~

さて、いかがでしたでしょうか?

以上の注意点を踏まえておけば、検査を行うことはできます。

ただし、困ることが1つあります。

それは、HDS-RとMMSEで統一された教示文章がないということです。

先ほど紹介した↓↓こちらをみながらやれば問題ないのですが、それだと、HDS-Rのほうをみたり、MMSEのほうをみたりと、いったりきたりして混乱します。

それなりに高い頻度で実施する方はやり方が学習効果も期待されるでしょうが、僕の様にたまにしかやらない場合、その都度「あれ、ここはどうすんだっけ?」となって混乱します。

そこで、この困りごとを解決するために、教示文をまとめておくことをお勧めします(^ω^)

つまり、採点用紙と同様に、教示文も一元化しておく必要があるということですね。

教示文を一元化したものが欲しい方は↓↓こちらから

まとめ

いかがでしたでしょうか?

HDS-RとMMSEのハイブリッド実施をする上での困りごとは解消されたでしょうか? (^^)/

最後に、本記事の内容をまとめてお別れです。

  • HDS-RとMMSEハイブリッド実施の際には、共通項目の理解を深めることが大事
  • 実施の際に準備するものは7点
  • ハイブリッド実施は、HDS-RとMMSEを同時並行で進めていく
  • 共通の検査項目は、②日時の見当識、③(場所の見当識)、④短気記憶・視覚記銘力、⑤計算・短期記憶・ワーキングメモリー、⑦数分前の近時記憶の5項目

ということなんですね~

それではまた(^^ゞ

参考

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