抑うつエピソード〜中核症状以外の症状について〜

DSM-5

こんにちは。

こちらの記事では、双極性障がいに関する僕の理解をまとめています。

これまでは、前回は、抑うつエピソードの中核症状である「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」についてまとめました。

本記事では「DSM-5における抑うつエピソードの中核症状以外の症状」についての学習を進めていきます。

抑うつエピソードの中核症状以外の症状

具体的には、DSM-5における、抑うつエピソードの項目Aの(3)〜(9)についてですが、その内容については⬇︎を参照ください。

(3)食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)

(4)ほとんど毎日の不眠または過眠

(5)ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)

(6)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退

(7)ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)

(8)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)

(9)死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりした計画

引用:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き,p69

そして、この中から、合計5つの症状が当てはまり、かつ2週間以上続く場合に項目Aに該当ということになります。

「あわせて九つのうち五つ以上が一日中、二週間以上、毎日出てきていることが確認された時に、うつ状態(抑うつエピソード)と診断します。」

引用:双極性障害 第2版 双極症Ⅰ型・Ⅱ型への対処と治療,p36

ちなみに、9つというのは、「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」を含めた九つということです。

そして、先ほどのDSM-5の項目を、加藤先生がわかりやすい表現でまとめてくれたのが以下です。

1)寝つきが悪く途中で目が覚めてしまう、夜眠れない、暗いうちから目がさめる

2)何を食べてもおいしさが感じられず、食欲がなく体重が減ってしまう、あるいは食欲が亢進して体重が増えてしまう

3)疲れやすく、休んでも疲れが取れない

4)動作がゆっくりになる、あるいはじっとしていられない

5)自分を責めてしまう

6)集中できず、決断ができない

7)生きていても仕方がない、自殺したいなどと考えてしまう

ということで、我々心理士は、診断には携わらなくとも、医療機関への受診を促す際には、こういう症状を根拠として知っておく必要はあると考えられます。

そのため、ここからは、各症状について少し詳しく学習を進めたいと思います。

有意の体重減少、または体重増加

こちらについては、詳しく症状がわかる論文などを見つけられなかったのですが、疑問なのは、体重が増加することもあるということですかね。

加藤先生の「何を食べてもおいしさが感じられず、食欲がなく体重が減ってしまう」というのはわかるのですが、「あるいは食欲が亢進して体重が増えてしまう」というのは、「何を食べてもおいしさが感じられないから、食欲が亢進する」ということなのでしょうか?

それとも、「おいしさが感じられらない」ことと「食欲の亢進」につながりはないのでしょうか?

こういう不可解なところに、思わぬつながりとかがあったりして、そういうことがわかると疾患の理解が深まることがあるので、大事な気がしますが、資料が見つかりませんでした。

もし、良い書籍や論文などがあれば、ご紹介ください。

ほとんど毎日の不眠または過眠

続いて、は睡眠に関する症状です。

まずは、不眠の場合について。

「このころになると,からだにも症状が出てくる.まず,眠れなくなる.床にはいってもまんじりともしない.足はやけに冷たくて,頭はそのわりにほてって、時計の音ばかり大きく響く.ぼんやりしてるうちに数時間がたってしまう.」

引用:うつ病の症状、順天堂医学.2005,51,p381より

こと「眠れない」ということに関してだけ言えば、うつ病になったことがない人でもイメージしやすいのではないでしょうか。(もちろん全くの別物なのでしょうが)

夜更かしして、翌日眠れなくなったこととか、次の日に大事なイベントが控えているときなどは、眠ろうとしてるのに、眠れない経験ってありますよね。

たった1日でもしんどいのに、あれが何日も、何ヶ月も続くと思ったらそれだけで恐ろしいです。

一方で、うつ病の場合、過眠という症状があるのも、これまた不思議なところです。

「患者に常に眠気や疲労感があって,むさぼるようにこんこんと眠り続ける場合もある.しかし,心地よい疲労がもたらす健康な眠りとは違って,朝,眼が覚めても少しもすっきりしない.あれだけ眠ったのに,まだまだからだがだるいのである.」

引用:うつ病の症状、順天堂医学.2005,51,p381より

動作がゆっくりになる、またはじっとしていられない

これを専門的に表現すると、精神運動焦燥と制止ということになります。

  • 精神運動焦燥→じっとしていられないこと
  • 精神運動制止→動作がゆっくりになること

「意欲という面で考えれば、意欲が昴進すると、精神運動性興奮を呈する。意欲が低下すると精神運動性制止を呈し、意欲減退hypobuliaさらには無為buliaになる」

引用:精神・心理症状学ハンドブック,p170より

そして、著しく意欲が下がった状態を、「昏迷」というのだそうです。

⬇︎加藤先生も、この昏迷状態について話していますが、ここにも不思議な点があるので、ちょっと目を通してみてください。

「うつ状態あるいは躁状態が激しくなると、昏迷状態といって、しゃべることができなくなり、身体が硬くなってしまう症状が現れることがあります。ひどい場合は、ゼンマイの切れた人形のように、不自然な姿勢で静止したままい続けるというかなり奇異な症状が見られる場合もあります。このような状態を、緊張病状態と言います」

引用:双極性障害 第2版 双極症Ⅰ型・Ⅱ型への対処と治療,p40

いかがでしたでしょう?

引っかかる部分ありませんでしたか?

先ほどの「意欲」という観点から、昏迷を捉えると、意欲がものすごく下がったときにあらわれるのが昏迷なんですよね?

にも関わらず、躁状態の時にもあらわれるっていうのはどういうことなんでしょうね?

思考制止

また、うつ病の症状に思考障害の一つである「思考制止」というものもありますが、これもどうやらこの精神運動制止が根底にあるようです。

②思考制止 retardation of idea, Dnkhemmung

なかなか考えが前にすすまず、まるでブレーキがかかったようになる。考えが出てこないのを自分では精神能力が低下してしまったとも感じる。そして、不幸、悲しみ、死といった主題にばかりとりつかれてしまう。躁状態における観念奔逸とうらはらの状態で、うつ病Depression(うつ状態)に特徴的である。多くの場合、上述のような感情の抑うつ、悲哀感と精神運動性の抑制が基礎になっている。

(引用:必修 精神医学,p33より)

ですので、以上を勘案すると、⬇︎このような構造になるのだと考えられます。

つまり、抑うつ気分と意欲の低下によって、精神運動制止(動きが遅くなる)という症状があらわれ、それが精神世界の動きの速度にも影響を与えて、昏迷と思考制止を引き起こすというのがここまでの僕の理解です。

ちなみに、昏迷は意識の障害、思考制止は思考の障害という点で区別されるようです。

自分を責めてしまう(ほとんど毎日の無価値感や罪責感)

この「自分を責めてしまう」という部分は、井原先生の講座でいうと以下が該当すると考えられます。

「うつになると,なんでもやたら「申し訳ない」気がしてくる.なんでもかんでも申し訳なく感じられる.友人と立ち話して,不意に彼が話を折って行ってしまった.多分彼は用事でも思い出してどこかへ行ったのであろう.でもそんなことですら,「しまった,なにか気に触ることを言ったのかな?ああ,どうしたらいいんだ.やつを怒らせてしまったぞ」などと感じて,おどおどしてしまう」

引用:うつ病の症状、順天堂医学.2005,51,p380より

うつ病エピソードの主症状である「抑うつ気分」「興味・関心の喪失」でもありましたが、これもまた「反芻」につながっている項目になりそうですね。

それと、うつ病にも妄想があるようですね。

そちらに関しては⬇︎にまとめておきましたので、気になる方はご覧ください。

集中できず、決断ができない(周りの人が気づくことができる)

これは、よく聞きますし、うつ病9段でも受診場面で「決断はしないように」みたいなやりとりがあったので、学習のイメージを助けるために参考にしてみるといいかもしれません。

ちなみに、僕はU-NEXTの31日間無料キャンペーンで、「ツレ鬱」も合わせて視聴させてもらいました。⬇︎⬇︎

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「大きな決断だけではない.もっと些細なこと,たとえば,仕事から家に帰って,妻に「ご飯?それともお風呂?」といつものように聞かれる. こんなことにも即座に答えられない.やけに戸惑って,くわえて,決められないという事実自体に気付いてさらに戸惑いは増して,やたらどぎまぎして,こんなことでもちょっとしたパニック状態になってしまう.そうして,「ああ,だめだ,なにも決められない!」となる.」

引用:うつ病の症状、順天堂医学.2005,51,p380より

また、「集中できず」という部分に関しては、興味と喜びの喪失によって、「新聞を読まなくなる」ということが起こるという話がありましたが、それとは別に「新聞(あるいは本)が読めなくなる」という現象が起こるようです。これは僕自身の体験談を抽象化したもので、そういった読み物を開くのですが、最初の2〜3行を読むのだが、まったく内容が頭に入ってこず、そこから先に進まないのだそうです。

他にも、仕事の場面でよく聞くのは、仕事をしなきゃ思って、取り掛かるのですが、失敗をした時のことを考え込んで、結果仕事が進まないみたいな感じのことですね。

生きていても仕方がない、自殺したいなどと考えてしまう

最後はこちらの項目ですね。

「人間,誰にとっても,「人生,生きるに値するか?」という問いこそ, 終生苦しめられ,答えを得られないままに終わる永遠のテーマである.そして,うつ病になると,この問いが,まことに暗い色合いをもってたちあらわれてくる.とくに,うつが深刻になると,思考がパターン化してきて,人生の意味を考えるときにすでに答は「ノー,生きるに値せず」となることが決まっている.はじめからそういう結論にはまり込むことがわかっていて,あえて,その問いを問い続ける.虚無と絶望のどん底に頭から飛び込んでいく.厭世的な結論を自虐的なまでに味わおうとする.」

引用:うつ病の症状、順天堂医学.2005,51,p380より

この文章をみたときにも思い浮かんだのは「反芻」ですが、おそらく反芻というのは、自殺念慮も含め、これらの項目が背景にあって、起こる現象なのでしょうね。

うつ病の症状としてわかりにくい症状

最後に、井原先生曰く、うつ病の症状としてわかりにくい症状があるということなので、それをまとめて終わりたいと思います。

うつ病の身体症状

以下の文章を読んだ時、改めて心療内科ににおける身体症状の聞きとりって大事なんだなーと考えさせられました。僕が在籍しているクリニックでは、インテークを心理士が担当し、その情報に基づいて医師が診断を下します。とりあえず、聞き取りの項目は決められているので、それに沿って聞けばいいのですが、こういう知識が背景にあると、聞き方も変わってきますよね。

「なかには,身体症状の仮面の下にうつ病が隠れているという場合もある.頭痛のなかでも「筋緊張性頭痛」と呼ばれるもの,「頭の肩こり」とでも呼ぶべきものがある。これは,うつ病の患者によくある.それから肩がこる.腰が痛い.めまいがしたり,耳鳴りがしたり,便秘と下痢を繰り返したりなどである.」

(引用:うつ病の症状、順天堂医学.2005,51,p382より)

ちなみに、猪原先生曰く、この辺の症状は医者でも見落としやすいようで、僕が通ってる心療内科では、インテーク時にCMIに回答してもらったりしてるのですが、その辺の見落としを防ぐ意図も含まれているのだろうなと、この文章を読むと思わされますね。

そして、こういった症状がからだに出やすい人の特徴として、次のような見解を述べています。

「彼らは,そもそも感情の炎を燃やすことが出来ないのである.だから,地下のマグマは深いところでうごめいているだけで,いつまでたっても噴火することはない.感情のエネルギーは,いつまでも不完全燃焼を続け,赤々と炎を上げることはついにない.」

(引用:うつ病の症状、順天堂医学.2005,51,p382より)

つまり、感情を発散するのが苦手な人ということでしょうか?

まとめ

それでは、最後に、本記事の内容を振り返ってお別れです。

  • うつ病の周辺症状は7つある。
  • 食事量の増加または減少。それに伴う、体重の増加または減少。
  • ほぼ毎日眠れなくなる、または眠りすぎる。
  • ほぼ毎日動きがノロノロする、または、落ち着きがない。
  • なんか毎日疲れる
  • 目の前のことに集中できない、ちょっとしたことが決められない
  • 申し訳ない気持ちでいっぱい
  • 死にたいという思いが頭をよぎる
  • この中から、5つ(そのうちの最低でも1つは、「抑うつ気分」または「興味・喜びの喪失」のどちらか)当てはまる場合、にうつ症状に該当。

お世話になった教材

①精神・心理症状学ハンドブック第3版

②DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き

③双極性障害 第2版

④第16回都民公開講座《現代の病:「うつ」と「もの忘れ」》うつ病の症状(論文)

うつ病の症状
J-STAGE

⑤U-NEXT31日間無料トライアル

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